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清少納言も愛でたすだれとは? |
□投稿者/ 管理人 院生(599回)-(2024/04/23(Tue) 07:06:43)
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枕草子に登場、琵琶湖岸で採集した植物で大学生が再現
清少納言が愛(め)でたのはウキヤガラのすだれ?−。平安時代の随筆「枕草子」で風情を感じたと清少納言が書いた田舎風の家にあった「三稜草(みくり)の簾(すだれ)」。その再現に龍谷大農学部(大津市)を今春卒業した学生が挑んだ。真っすぐ長い茎になりにくいミクリはすだれに不向きだと疑問を抱き、古名で「ミクリ」と呼ばれていたウキヤガラで試作。古代から使われるクズの糸で編んだ野趣あふれるすだれを完成させ、当時にあった材料と技術で実際に作れることを確かめた。
三浦励一准教授の雑草学研究室に所属していた藤本剛輝さん(23)と李恩注さん(22)の2人。近年姿を消しつつあるガマ科のミクリを三浦准教授が大学近くで見かけ、すだれの三稜草とは異なる植物ではないかと考えたのがきっかけ。かつて植物研究家が唱えていたカヤツリグサ科のウキヤガラ説に着目し、2人が卒業研究で昨年5月から取り組んだ。
枕草子では、郊外の家で三稜草の簾などを見て、「ことさらに昔のことをうつしたり(昔のようだ)」と記す。藤原道綱の母による蜻蛉日記にも登場する。このすだれを注釈書や辞書は「ミクリの茎を干して編んだすだれ」と説明するが、ミクリはすだれの素材として平安時代から使われているヨシや竹ひごのように長く真っすぐ育たない。
三浦准教授によると、江戸末期ごろにはミクリとウキヤガラは呼び分けられていたが、江戸後期の博物誌「本草綱目啓蒙」では「ミクリ」としてどちらも紹介している。平安時代の三稜草はウキヤガラを指す可能性があるとみる。
藤本さんは、水辺に生えるウキヤガラを求めて、琵琶湖岸や河口を100カ所以上回った。「ヨシに背の高さで負けて隠れるため、群生地を探すのに苦労した」が、1・5メートル前後にすらりと伸びた冬枯れの約200本を採集した。
編む糸にもこだわった。ウキヤガラの生育地近くで手に入る素材だと推測し、クズの繊維を使うことにした。三浦准教授と編み細工の研究を通じて親交があった染織研究の上羽陽子・国立民族学博物館准教授が協力し、ゆでたクズのつるを池の水に漬け、日陰で発酵させる古来の製法で繊維を取りだした。李さんがクズの採取から繊維によりをかけて糸にするまでを担った。
素材が整った今年3月下旬、「京すだれ川ア」(京都府亀岡市千代川町)の工房で藤本さんと李さんが、職人の手ほどきを受けながら、ウキヤガラの茎を1本ずつクズの糸で固定していった。茎の断面は三角形をしており、平べったい茎の側面をきれいにそろえてすだれの表面にした。
藤本さんは「ウキヤガラはヨシより柔らかくカットしやすく、当時の人も加工しやすかったのではないか」と仮説への自信を深めていた。李さんは「糸づくりは根気が要った。すだれづくりが材料集めから大変な作業だったのがよく分かった」と笑顔を見せた。
京すだれ川アの川ア音次社長(77)は、ウキヤガラのすだれは聞いたことがないといい、「丸い断面のヨシよりも遮光性が高い。黒い節や色むらがあるが、好む人もいる。素材として魅力的だ」と評価していた。
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