世界が注目「日本のどの場所よりも心落ち着ついた」
京都府亀岡市の観光名所と言えば保津川下りやトロッコ列車だが、山奧にも独自の魅力を秘めたスポットがある。神秘的な自然美と静寂、「霧の町」ならではの絶景を味わえる二つの山寺をたどった。
JR亀岡駅から西へ16キロ、車で峠を二つ越えた先の畑野町千ケ畑に、法常寺は建つ。新緑の境内へ足を踏み入れると、ほのかに甘い樹木の香り、ウグイスの鳴き声に五感を刺激される。苔(こけ)むした地面や石段の美しさに見とれた。
17代住職の宮(みや)裡(うち)顕一さん(44)は「亀岡市民もあまり知らないのでは」と推し量る。平日は京都市右京区の妙心寺で働いており、拝観は予約に限る。30分ほどかけて自ら丁寧に案内し、拝観料は一般500円という。
創建は1641(寛永18)年。臨済宗の僧・一絲(いっし)文守(ぶんしゅ)に帰依した後水尾上皇が、静かな環境を好んだ一絲のために寺を開いたと伝わる。皇室とのゆかりは深く、御水尾上皇や歴代天皇から下賜された水差しや像を多く所蔵する。
目を引くのは、府の指定名勝の庭園だ。山あいの谷を埋めて作ったとされ、こけの生えた巨大な一枚岩が存在感を放つ。春は新緑、秋は紅葉が美しいが、拝観者は少ないという。最も人気の紅葉時期を除けば「月に10人ほどです」と宮裡さんは苦笑する。
足を運んだ人の満足度は高そうだ。「まるでジブリ映画の世界です」と絶賛するのは、亀岡の活性化に取り組む一般社団法人「Fogin」の並河杏奈さん(31)。旅行業の資格も持ち、少人数の海外客を同寺にいざなうと、山奧に広がる光景にくぎ付けになっていたという。
庭を眺めて時を過ごす座禅体験も好評で、並河さんのツアーで昨秋に訪れた米国在住のスティーブ・スカルファティさん(53)は「日本で訪れたどの場所よりも、心を落ち着かせてくれた」とメールで感想を寄せた。
寺を支える山間部の住民は減りつつある。宮裡さんは寺の存在を知ってもらおうとインスタグラムを始めた。「観光客に殺到されても困るが、寺を守るためにも訪れる人が増えてほしい」と、模索を続ける。
一方、写真愛好家らに「霧の寺」として知られるのは、亀岡市薭田野町の千手(せんじゅ)寺。標高325メートルにある山門からは田園風景を一望でき、1枚の絵画のよう。
雄大な雲海を眼下に楽しめるのは冬が中心だが、「ごくまれに、春先に見られることもあります」と住職の村口紹亨(じょうこう)さん(61)。同寺は霧の状態を確認できるよう、ライブカメラの画像をホームページで公開している。
自由に参拝してもらうため、拝観料は取っていないが、来訪者のマナーが悩みの種という。早朝の霧が目当てなのか、夜中から境内で待機したり、車を無断で駐車したりする人がいた。参拝せずに景色だけを身に来る人も多く、村口さんは呼びかける。
「お寺なので、手は合わせてほしい。その上で景色を楽しんでもらえれば」
|