要望に応えたのは大津市の工房
京都大などが開発した世界初の木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」が昨年12月、国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙空間に放出された。1辺わずか10センチの小さな人工衛星に用いた木の板は、薄いもので4ミリ。実現を支えたのは、日本古来の伝統技法と職人の工夫だ。
「木で人工衛星を作ろうと思うんだけど」。2018年、びょうぶなどの表装建具の文化財修理を手がける黒田工房(大津市)の代表臼井浩明さん(52)は、交流のあった京大研究者から連絡を受けた。約10センチの大きさと聞き「そんな箱やったら作りますけど」。深く考えず応じたと笑う。
本体は「留形隠(とめがたかく)し蟻組接(ありくみつ)ぎ」と呼ばれる伝統技法で組み立てた。たんすなどに使う技法で、接着剤やねじを使わず、木材の端の一部を凹凸状に加工して組み合わせる。
木材は小口と呼ばれる断面から割れることがあるが、この技法は小口が露出せず、強度を保てるとして採用が決まった。
正確な寸法で板を整えるのに最も腐心した。板の厚み8ミリほどの初期モデルは難なく完成。だが研究が進むにつれ、内部スペースの確保やアルミフレームの取り付けなど仕様が変更され、最終モデルは最も薄い板で4ミリになった。
臼井さんと共に作業を担った従業員の崔錬秀さん(34)は「かんなひと削りがどれぐらいか」を調整しながら慎重に削ったと振り返る。板の端を凹凸状に加工するのも「ちょっとたたきすぎると、ノミが貫通しちゃって」と苦労を明かす。工夫を重ね「機械である程度まで進め、最後はたたかず突くように手で調整した」と説明した。
表装建具ではあまり活用しない技法で、当初は少し不安があった。それでも「寸法も正確にしっかり出せた。今までやってきた仕事の技術を生かせたと思う」。
臼井さんと崔さんは昨年12月9日、衛星が宇宙に放出される様子を、京大の研究チームとオンラインで見守った。臼井さんは「ここから初めての旅が始まるんだなと感動した」と声を弾ませた。
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